先週末、台風の中を横浜へ向かった。
滞在したウェスティンホテル横浜では、防音性の高い静かな客室と、心地よい最新のヘブンリーベッドのおかげで、荒れた天候が嘘のように穏やかな夜を過ごすことができた。
ホテルに泊まると、私は決まってルームサービスを利用する。
というか、ルームサービスのあるホテルを選ぶ。
旅先で部屋に入り、ルームサービスで頼んだ冷えたビールを片手に一日の余韻を楽しむ時間は、私にとってホテルステイの大切な楽しみの一つである。
最近の注文は客室の電話ではなく、スマートフォンでQRコードを読み取り、専用ページから行う方式になっている。
確かに便利だ。
外国からの宿泊客にとっても言葉の壁はなく、注文ミスも少ない。
ホテル側にとっても業務は効率化されるだろう。
時代の流れとして、ごく自然な変化なのだと思う。
しかし、その画面を眺めながら、私は少しだけ物足りなさを感じていた。
以前なら、
「冷えたビールを一本お願いします。」
そんな何気ない一言から会話が始まった。
「かしこまりました。」
「少々お待ちください。」
その短いやり取りには、注文という行為以上の温度があった。
ときには「今日はお疲れさまでした」という気持ちが伝わるような声色に触れることもある。
効率だけを考えれば不要な時間なのかもしれない。
しかし、その数十秒こそが、ホテルという空間を単なる宿泊施設ではなく、「心地よい滞在」へと変えていたのではないだろうか。
そんなことを考えていたら、知人との約束の時間が近づいてきた。
シャワーを浴び素早く着替えて、中華街へ向かうためにホテル玄関へと急いだ。
外は相変わらず強い雨。
玄関前には一台のタクシーも見当たらない。
すると、一人のベルボーイが傘を差し、迷うことなくホテルの前の大通りへ出ていった。
車の往来を見ながら、雨に濡れることもいとわずタクシーを探してくれる。
やがて一台のタクシーを止め、笑顔で私たちを案内してくれた。
これも彼らにとっては特別なサービスではないのかもしれない。
しかし、この何気ない行動は、QRコードでの注文よりもずっと鮮明に私の記憶に残っている。
ホテルの価値は、最新の設備や洗練されたシステムだけでは決まらない。
合理化によって、多くのサービスは速く、正確になった。
それは間違いなく時代の進歩である。
しかし、人の心を動かす瞬間まで合理化することはできない。
雨の中でタクシーを探してくれたベルボーイの姿は、おそらくマニュアルだけでは説明できない。
そこには、「お客様に気持ちよく過ごしていただきたい」という、その人自身の思いがあったのだろう。
ホテルとは、ベッドを提供する場所ではない。
思い出を提供する場所でもある。
そして、その思い出をつくるのは、最後まで人なのだ。
効率化はこれからも進んでいく。
AIも、QRコードも、セルフサービスも、ますます当たり前になるだろう。
それでも私は願っている。
合理性の先にある、人の温もりだけは失われてほしくない。
なぜなら、人は便利さを記憶することは少なくても、親切にしてもらった一日は、いつまでも忘れないのだから・・・。




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