先日、久しぶりに北九州を訪れた。
娘と寿司を楽しんだあと、私は自然とリーガロイヤルホテル小倉のメインバーセラーバーへと足を向けていた。
若い頃から何度となく訪れている場所だ。
特に好きなのは、その高い天井である。
ホテルのバーには様々な魅力があるが、私にとっては空間の余裕こそが最大の価値だと思っている。
少しだけ背筋を伸ばしながらも、肩肘張る必要はない。
日常から完全に切り離されるわけでもない。
かといって普段の生活の延長線上でもない。
ホテルのバーには、そんな独特の距離感がある。
その夜は娘と二人だった。
考えてみると、娘と二人きりでバーで酒を飲むのは初めてだった。
いつの間にか同じ空間でグラスを傾けられる年齢になったのだと思うと、少し不思議な気持ちになった。
会話の内容は特別なものではない。
近況を話し、笑い、時には少し真面目な話もする。
ただそれだけの時間だった。
しかしその「ただそれだけ」が、年齢を重ねるほどに貴重に感じられる。
実は私はこのバーで、全く違う時間を過ごしたことがある。
ずいぶん前、父の法事を終えた夜だった。
私は一人でカウンターに座り、シングルモルトを飲んでいた。
法事を終えた後の独特の静けさ。
父を見送った現実と向き合いながら、気持ちを整えるために立ち寄ったのだと思う。
その夜、グラスの中の琥珀色を眺めながら、自分の中で何かをリセットし、小倉駅から新幹線に乗って神戸へ戻った。
同じ場所。
同じホテル。
同じバー。
けれど過ごしている時間はまるで違う。
父を思いながら飲んだ夜。
娘と笑いながら飲んだ夜。
人生は前へ進み続ける。
しかしホテルという場所は、不思議とその時々の自分を静かに受け止めてくれる。
私がホテルを好きな理由は、豪華さやサービスだけではない。
そこには、日常と非日常の間にある絶妙な距離感がある。
何かを祝う日もあれば、何かを見送る日もある。
考え事をする夜もあれば、大切な人と笑い合う夜もある。
ホテルはそのどちらも受け入れてくれる。
だから私は旅先でホテルを選ぶ時、設備や価格だけでなく、その場所に流れる空気を大切にしたいと思っている。
人生の節目は、案外あとになって気付くものだ。
あの日、父を思いながら飲んだ夜も。
今回、娘と酒を飲んだ夜も。
きっといつか振り返れば、私にとって大切な時間だったと思い出すのだろう。
セラーバーの高い天井を見上げながら、そんなことを考えていた。


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